第6章
生地、素材の概要 ~「質感」の印象への影響


【この記事の要約】 ※この記事は約7分で読めます。
課題: 「色は合っているのに、なんとなくチグハグに見える」「季節感がないと言われる」原因は、素材選びのミスにある。
解決策(構造): 服の素材は「構造(織り/編み)」と「成分(綿/ウール等)」の2軸で決まる。まずはこの違いを理解する。
論理(印象): 素材の「光沢(ツヤ)」があればドレス寄り(大人っぽい)、「シワ・凹凸」があればカジュアル寄り(親しみやすい)に見える。
結論: 色が「2次元の情報」なら、素材は「3次元(奥行き)の情報」。TPOに合わせて、ツヤとマットを使い分けることが大人の身だしなみ。
第5章では「色(カラー)」について解説しましたが、色はあくまで「視覚情報」の一部です。 同じ「黒」でも、光沢のあるレザージャケットの黒と、ふんわりしたウールセーターの黒では、相手に与える印象は大きく異なります 。
本章では、コーディネートの3要素の2つ目、「素材(マテリアル)」について、その構造と種類、そして視覚効果(印象)への影響を論理的に解説します。
1.生地の構造:「織物」と「編物」の違い
まず、服の生地がどのように作られているかを知る必要があります。服は大きく分けて、以下の2つの構造で作られています。これは「着心地」と「見た目のきちんと感」に直結します。
① 織物(クロス / Woven)
縦糸と横糸を直角に交差させて作った生地です。
特徴:伸び縮みせず、形が崩れにくい。
代表アイテム:ワイシャツ、スーツ、ジーンズ、コート。
印象:「ドレス(フォーマル)」寄り。直線的で、パリッとした清潔感や規律正しい印象を与えます。
② 編物(ニット / Knit)
1本の糸をループ状に絡ませて作った生地です。
特徴:伸縮性があり(ストレッチ性)、体にフィットする。シワになりにくいが、型崩れしやすい。
代表アイテム:Tシャツ、セーター、カーディガン、スウェット、靴下。
印象:「カジュアル(リラックス)」寄り。柔らかく、親しみやすい印象を与えます。
【図:生地 織物と編物の違い】


【TIPS】技術進化による、広いアイテムへの編み物の進出
多くの人が誤解していますが、Tシャツ(カットソー)は構造上「編物(ニット)」の一種です。だからこそ動きやすく、肌着やスポーツウェアとして発展し、カジュアルウェアにも多く取り入れられました。
対して、ワイシャツは「織物」です。ビジネスでワイシャツが必須なのは、その構造が「規律(型崩れしない)」を象徴しているからです。
しかしながら、生地や縫製の技術進化により、昨今は「ニット素材のワイシャツ」「ジャージ素材のジーンズ」など、「編物生地を使ったアイテムの拡大」により、「型崩れしにくく、着心地が良い服」が増えていますので、上手に活用していきましょう。
2.主な「繊維(成分)」の種類と特徴
次に、生地を構成する「糸の成分」についてです。現代のメンズファッションで押さえておくべき主要な素材は以下の通りです。
天然繊維:自然の恵み
① 綿(コットン / Cotton)
特徴:吸湿性・耐久性に優れるオールラウンダー。
用途:Tシャツ、ジーンズ、チノパンなど、カジュアルウェアの主役。
季節:通年(厚みによる)
② ウール(羊毛 / Wool)
特徴:保温性が高く、シワになりにくい。特有の「起毛感」が高級感を生む。
用途:スーツ、冬のコート、セーター。
季節:秋冬の主役
③ 麻(リネン / Linen)
特徴:通気性が最強で、速乾性がある。独特の「シャリ感」と「シワ」が特徴。
用途:夏のシャツ、ジャケット。
季節:夏専用
【図:天然素材(綿・ウール・麻)】


化学繊維:科学の進歩の産物
以前の化学繊維は「安物素材」の代名詞でしたが、現在は大幅に機能性が向上し、天然繊維を上回る高機能素材が増えています。
④ ポリエステル / ナイロン
耐久性が高く、軽い。ダウンジャケットの表面や、機能性インナー(エアリズム等)、スポーツウェアに使われます。最近はウールに見える「高機能ポリエステル」のセットアップなどもビジネスマンに人気です。
⑤ ポリウレタン
ゴムのように伸びる繊維。綿に数%混ぜることで「ストレッチ・ジーンズ」などが作られます。快適性の鍵となる素材です。
皮革(レザー):大人の象徴
⑥ 天然皮革(本革)
使えば使うほど足や体に馴染み、経年変化(味)を楽しめます。手入れが必要ですが、その質感は圧倒的な「格」を演出します 。
⑦ 合成皮革(フェイクレザー/エコレザー)
水や汚れに強く、手入れが楽。近年の技術向上により、本革と見分けがつかない高品質なものも増えています。雨の日用や、トレンドアイテムとして割り切って使うのが賢い選択です 。
【図:化学繊維(合成繊維)・皮革】


3.素材の「質感(テクスチャ)」が色と印象を変える
素材の違いの活用例を紹介します。同じ「ネイビー」や「黒」を選んでも、素材の質感によって、相手に与える印象は劇的に変化します。これを理解することが、脱初心者への大きなステップです。
「光沢(ツヤ)」と「マット(起毛・粗野)」
素材の表面処理は、ドレスとカジュアルのバロメーターになります。
① 光沢がある素材(Glossy)
例:ウールのスーツ、シルク、上質なコットン(ブロード)、表革(レザー)、ポリエステル(ツルツルしたもの)。
視覚効果:光を反射し、色を明るく、鮮やかに見せます 。
印象:「ドレス・セクシー・都会的」。パーティーやビジネス、デートなど「キメたい」場面に適しています 。
② 光沢がない・マットな素材(Matte / Rough)
例:洗いざらしの綿(オックスフォード)、麻(リネン)、スエード、フランネル、ツイード、ローゲージニット。
視覚効果:光を吸収し、色を深く、落ち着いたトーンに見せます 。
印象:「カジュアル・穏やか・タフ」。休日やリラックスしたい場面、親近感を与えたい場面に適しています 。
【図:素材の「光沢」と「マット」の違いの例】


織り目の「解像度」
素材の織り目や編み目の細かさは、画素数(解像度)のようなものです。
① ハイゲージ(高解像度)
織り目が見えないほど細かい生地(スーツやブロードシャツ)。ドレス寄り 。
② ローゲージ(低解像度)
ざっくりと織り目が見える生地(デニム、キャンバス、ざっくりニット)。カジュアル寄り 。
【図:ニットの「ハイゲージ」と「ローゲージ」の違いの例】


4.まとめ:素材は「TPOの調整つまみ」
色は「5色のベーシックカラー」で固定し、素材でTPOや季節感を調整する。これが最も効率的な戦略です。以下の活用例をいくつか示します。
「今日は大事な会合」: 光沢のあるウールのスーツと、織り目の細かいシャツで「ドレス」に振る。
「休日のカフェで読書」:ツヤのないざっくりしたニットと、色落ちしたデニムで「リラックス」に振る。
「夏のディナーデート」: 通気性の良い麻(リネン)シャツだが、だらしなく見えないよう、パンツは少し光沢のあるスラックスで引き締める。
このように、素材の持つ「印象」を操れるようになれば、同じ色の服を着ていても「あの人はいつもTPOをわきまえている」と評価されるようになります。
次章からは、いよいよコーディネートの3要素の最後にして最大の難関、「シルエット(サイズ感とライン)」について解説します。まずはその基礎となる「サイズの選び方」から始めましょう。