第7章
シルエットその1 サイズの基礎知識


【この記事の要約】 ※この記事は約8分で読めます。
課題:サイズ選びの失敗は、「自分の身体の寸法(ヌード寸法)」と「服の設計寸法(仕上がり寸法)」を把握していないことから生じやすい。
構造:JIS規格の「基準値」と「許容範囲(ゆとり)」のロジックを理解し、自分の体型・体格にあったサイズを選ぶ。
結論:「トップス:ジャストサイズ」「ボトムス:スリム・テーパード」を選び、失敗しない清潔感のあるスタイルを作る。
1.サイズ表記の正体:誰が「Mサイズ」を決めたのか?
「いつもMサイズを買っているのに、ブランドによって大きかったり小さかったりする」
「同じブランドでも、シャツはMでいいのにアウターはLじゃないときつい」
多くの男性が経験するこの現象。なぜこのような「ブレ」が生じるのでしょうか? 実は、洋服のサイズには「JIS(日本産業規格)」という、明確な基準が存在します。まずはこの「モノサシ」の存在を知ることが、ロジカルなサイズ選びの第一歩です。
工業製品としての洋服の「サイズ規格」
日本の多くの洋服は、JIS L 4004 という規格に基づいて企画・製造されています。これは「身長」と「胸囲(バスト)」「胴囲(ウエスト)」の組み合わせで、対象となる日本人の体型を割り出したものです。一般的な目安(成人男性)は以下の通りです。
Sサイズ(Small)
身長:155cm ~ 165cm、胸囲:80cm ~ 88cm
Mサイズ(Medium)
身長:165cm ~ 175cm、胸囲:88cm ~ 96cm
Lサイズ(Large)
身長:175cm ~ 185cm、胸囲:96cm ~ 104cm
つまり、Mサイズとは「身長170cm前後、標準体型の日本人男性」が着ることを想定して作られた「設計の基準点」なのです。
【図:生地 織物と編物の違い】


【図:JIS規格のサイズマトリクス表】
なぜ「基準」があるのにサイズが合わないのか?
「自分は身長170cmだからMサイズで間違いないはずだ」 そう思って着てみたら、ピチピチだったり、ブカブカだったりする。これには2つの論理的な理由があります。
体型の個体差(厚みの違い):JISはあくまで統計的な「標準体型」です。同じ身長170cmでも、筋肉質で胸板が厚い人や、お腹だけ出ている人など、厚み(体積)は人によって異なります。
デザイン意図(シルエット)の違い:ここが最も重要です。デザイナーがその服を「どう着せたいか」によって、実際の寸法は大きく操作されています(後述します)。
2.「ヌード寸法」と「仕上がり寸法」の違い
サイズ選びで失敗しないためには、建築や機械設計と同様に、2種類の寸法データを区別して考える必要があります。
① ヌード寸法(Body Size):あなたの身体そのもののサイズです。服を着ていない状態での計測値。JIS規格のS/M/L表記は、基本的にこの「ヌード寸法がこの範囲の人向け」というガイドラインです。
② 仕上がり寸法(Garment Size):洋服そのものの実寸です。製品をメジャーで測った時の数値です。
重要なのは「ゆとり量(Ease)」
洋服は、身体にピタリと張り付いているわけではありません。動いたり呼吸したりするための「ゆとり(空間)」が必要です。
方程式:仕上がり寸法 ー ヌード寸法 = ゆとり量
「サイズが合わない」という現象の多くは、この「ゆとり量」の見積もりミスです。 例えば、同じMサイズ表記のTシャツでも、「タイトに着せたいデザイン」ならゆとりは5cm程度、「リラックスして着せたいデザイン」ならゆとりは10cm以上取られています。
タグの「M」だけを見るのではなく、通販サイトなどのサイズ表にある「仕上がり寸法」を見て、自分の身体に対してどれくらいの「ゆとり(空きスペース)」があるかを想像することが、ロジカルなサイズ選びの秘訣です。


【図:ヌード寸法と仕上がり寸法の関係】
3.トップスのシルエット分類 ~「ジャスト」を基準にする~
サイズ選びを複雑にしているのが、服自体の「設計思想(シルエット)」の違いです。 JIS規格のサイズ(ヌード寸法)が自分に合っていても、デザイナーがどの程度の「ゆとり(ヌード寸法と仕上がり寸法の差)」を持たせているかによって、見た目の印象は大きく変わります。
現代のメンズファッションには、大きく分けて以下の3つのシルエットが存在します。
① スリムフィット(タイト)
特徴:体のラインにぴったりと沿うような細身の設計。ゆとり量は最小限です。
印象:シャープ、若々しい、モード。
注意点:体のラインがはっきりと出るため、ある程度スタイルの良さが求められます。タイト過ぎると窮屈になり着心地が悪くなります。スリムフィットの服でも、1サイズ上を選ぶことで、②ジャストフィットと同等になることもあります。
② ジャストフィット(レギュラー / スタンダード) ★推奨
特徴:体のラインを拾いすぎず、かといって余計なダブつきもない設計。肩幅や着丈が標準的な設定(JIS規格のど真ん中)です。
印象:誠実、清潔感、大人っぽい、ベーシック。
推奨理由:JIS規格を踏まえて作られた洋服として最も基本的なシルエットです。流行に左右されず、誰にでも似合いやすく、相手に「安心感」を与えます。まずはこのサイズ感を覚えることが重要です。
③ オーバーサイズ(ビッグシルエット / リラックス)
特徴:あえて肩の位置を落とし(ドロップショルダー)、身幅を広く取った設計。
印象:トレンド感、リラックス、現代的。
注意点:昨今の流行ですが、全身のバランス調整の難易度が高く、一歩間違えると「サイズを間違えた人」や「だらしない人」に見える危険性があります。
【結論】 まずは迷わず「②ジャストフィット」を選べるようになりましょう。応用であるオーバーサイズに手を出すのは、基礎が固まってからで十分です。
【図:素材の「光沢」と「マット」の違いの例】


【図:トップスのサイズ感の比較】
4.ボトムスのシルエット分類 ~「足のライン」を整える~
パンツ(ボトムス)のシルエットは、全体の印象を支える土台です。 トップスのサイズが合っていても、ボトムスの選び方を間違えるとコーディネート全体が台無しになります。主に以下の種類があります。
② ストレート
特徴:太ももから裾まで、太さが変わらず一直線の形(土管型)。
印象:武骨、クラシック、普遍的。
用途:ジーンズやチノパンなど「ワーク」「ミリタリー」由来のアイテムに多い形です。男らしいですが、少し野暮ったく見える場合もあるので、ストレートでも裾に向かって若干テーバードしているほうが扱いやすくなります。
② スリム・テーパード ★推奨
特徴:「テーパード(Tapered)」とは「次第に細くなる」という意味。腰回りや太ももには適度なゆとりがありつつ、足首(裾)に向かって徐々に細くなっていく形です。
印象:スマート、脚長効果、きれいめ。
推奨理由:多くの方に推奨できるシルエットです。日本人に多い「太ももが太く、足が短め」という体型コンプレックスをカバーしながら、スタイルを良く見せてくれます。すっきりしたラインで、清潔感を出せるのが最大のメリットです。
③ ワイド(バギー)
特徴:全体的に太い形。
印象:男らしい、リラックス、個性的。
注意点:履き心地は楽ですが、重心が下がるため、足が短く見えやすくなります。全体のラインのバランスを整える必要があるなど、上級者向けのアイテムです。
④ フレア(ブーツカット)
特徴:膝から裾に向かって広がる形。
印象:エレガント、レトロ。
注意点:上手に履きこなせば、足長効果などが作れますが、こちらもワイドシルエットと同様に上級者向けのラインです。


【図:ボトムスのシルエット比較(フレアを除く)】
5.はじめに選ぶべき「正解」のまとめ
ここまで、サイズ規格の仕組みとシルエットの種類を見てきました。 情報量が多く感じるかもしれませんが、初心者がまず実践すべき「正解」は以下の通りです。
自分のヌード寸法(身長・体重・適正サイズ)を把握する。
トップスは「ジャストフィット(レギュラー)」を選ぶ。
ボトムスは「スリム・テーパード」を選ぶ。
「お洒落な人は変わった形の服を着ている」と思われがちですが、このような人達も皆「自分の体型にマッチした、基本サイズ選びを確実にできる」という土台を持っています。そのうえで、アイテム選びや着こなしの幅を広げ、ファッションを楽しんでいるのです。まずは、清潔感や信頼感に直結する「基本の型」を使いこなすことを徹底しましょう。
次章では、選んだこれらの服をどのように組み合わせるか? コーディネートを立体的に捉える「洋服の階層構造(レイヤー)」について解説します。